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東京地方裁判所 昭和43年(ワ)5881号 判決

原告 寺崎清

右訴訟代理人弁護士 若新光紀

被告 大崎運送株式会社

右代表者代表取締役 中西正道

〈ほか一名〉

右両名訴訟代理人弁護士 田中登

同 藤原寛治

右訴訟復代理人弁護士 二宮充子

主文

被告らは連帯して原告に対し金七八二、三八九円および内金七一二、三八九円に対する昭和四一年八月七日以降支払い済みに至るまで年五分の割合による金員の支払いをせよ。

原告の被告らに対するその余の請求を棄却する。

訴訟費用はこれを一五分し、その一四を原告の、その余を被告らの、各負担とする。

この判決は、原告勝訴の部分に限り、かりに執行することができる。

事実

≪省略≫

理由

一、請求原因第一項(一)ないし(四)は当事者間に争いがなく、≪証拠省略≫によれば原告は本件事故により右上肢切断及頭部瘢痕創の負傷を負ったことが認められる。

二、請求原因第二項(一)および(二)のうち被告岩見の過失の点を除き当事者間に争いがない。

≪証拠省略≫によれば次の事実が認められる。

(一)  本件道路は産業道路方面から第一京浜国道方面に至るコンクリート舗装の道路で中央線の表示があり、第一京浜国道の方に向って中央線の右側の幅員は五・七米、左側の幅員は事故地点手前の交差点より四、五〇米の所までは四・五米、その先は七米となっている。制限速度は時速五〇粁で、直線の見通しはよく、夜間は暗い。当時中央線の右側の道路端にダンプカーが駐車していたが、中央線の左側は通行の障害となる物はなかった。

(二)  被告岩見は甲車を運転し本件事故地点の五、六〇米手前の交差点を左折し、第一京浜国道方面に向って時速約五〇粁で本件道路左側中央線寄り(甲車の右側車輪との間隔は約四〇糎)を進行し、右交差点を左折して間もなく約五、六〇米前方に対向して来る乙車を発見し、かつ乙車の進路左側前方に駐車してあったダンプカーに気付いたが、乙車が中央線を越えることなく充分ダンプカーとの間を通過し得ると思い、そのままの位置、速度で甲車を運転したところ、乙車との距離が約一〇米位のところにいたったとき、乙車が急に甲車の進路に寄って来るのを感じ、ブレーキをかけたが間に合わず、中央線より約四〇糎内側(乙車が中央線を約四〇糎越えた所)で乙車と接触した。

(三)  原告は上棟式でビールをコップに三、四杯呑んだ後乙車を運転し時速約四〇粁で本件道路を産業道路方面に向って進行し、乙車右側の窓を開け窓わくに肘をのせたまま運転を続け、前方中央線寄りに進行して来る甲車を発見したが、道路の進路左側に駐車してあったダンプカーを避けるため右にハンドルを切ったところ中央線を越え、前記の場所に於いて甲車と接触した。

右認定事実によれば被告岩見は対向車および対向車の進路左側に駐車中の車輛があるのを発見したのであり、かつ自車の進路には何ら障害物が存しなかったのであるから、中央線寄りを走行することなく、さらに左側に寄って進行し事故の発生を未然に防止すべき注意義務があるのに、これに違反し、中央線から約四〇糎離れた所を運転し続けた過失が認められる。

従って、被告会社の免責の抗弁は採用し難い。一方、右認定事実によれば、原告には、駐車中の車輛と中央線との間を通過し得る距離があったに拘らず、中央線を越えて進行した過失があることは明らかであり、両者の過失割合は原告八対被告岩見二と認められる。

三、(一) ≪証拠省略≫によれば、原告は本件事故による受傷のため昭和四一年八月六日から同年一〇月一九日まで京町外科病院に入院し治療費三五八、五四〇円を要し、同月二〇日から昭和四二年二月九日まで同病院通院し治療費九、〇〇〇円を要し、付添看護費用二三、八六六円を要し、入院期間中の氷代四、三六〇円を要し、医師の指示に基づき同年四月頃温泉療養を行い二〇、九六〇円を要したことが認められ、右合計は四一六、七二六円となる。

(二) ≪証拠省略≫によれば、原告は事故当時大工をし、日給二、五〇〇円、一ヶ月平均稼働日数は二三日であり、一ヶ月の月収は五七、五〇〇円であったところ、本件事故により休業したことが認められ、右休業期間中本件事故と相当因果関係の認められるのは事故の翌日より通院の終った昭和四二年二月九日までの六ヶ月と認められるのでこの間の休業損害は三四五、〇〇〇円となる。

≪証拠省略≫によれば、原告は、昭和一三年五月一五日生の男子で本件事故により右上肢を肩節関附近から切断の後遺症を受けたことが認められる。そして、右後遺症の固定の時点は通院の終った昭和四二年二月九日頃と認められ、その時点で原告は二八才余で同年令の稼働年数は原告の主張する五五才を下ることなく、原告の労働能力の喪失率は原告の主張する三分の二を下らないものと認められるので、右喪失率による一年の損失額は四六〇、〇〇〇円となり、五五才まで二七年間につき年五分の中間利息控除をホフマン複式年別計算によって行なえば七七三万円(一万円未満切捨)となる。右休業損害と逸失利益の合計は八、〇七五、〇〇〇円となる。

(三) ≪証拠省略≫によれば原告は本件事故により乙車を破損され修理費七〇、二二〇円相当の損害を蒙ったことが認められる。

(四) 右(一)ないし(三)の合計八、五六一、九四六円となるところ前認定の原告の過失を斟酌すれば一、七一二、三八九円となる。

(五) 前認定の諸事実により原告の受くべき慰藉料は五〇万円をもって相当と認める(算定の理由の要点は入院に対するもの二四万円、通院に対するもの二〇万円、後遺症に対するものは現行自賠償法施行令別表後遺傷害等級第四級の補償額に準拠し二〇六万円、合計二五〇万円につき原告の過失を考慮し五〇万円と算定した)。

(六) 右(四)(五)の合計は二、二一二、三八九円となるところ原告が自賠責保険金一、五〇〇、〇〇〇円を受領したこと原告が自陳するところであるのでこれを控除すれば残額七一二、三八九円となる。

(七) 原告が本訴提起を原告訴訟代理人に委任したこと本件記録上明らかであるが、これに要した弁護士費用のうち被告らに賠償させるのは七〇、〇〇〇円をもって相当と認める。

四、よって原告の本訴請求のうち被告らに対し連帯して七八二、三八九円ならびに内金七一二、三八九円に対し昭和四一年八月七日より完済にいたるまで年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める部分は正当として認容し、その余は失当として棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第九一条第九二条、仮執行の宣言につき同法第一九六条を適用し、仮執行の免脱は相当でないので付さないこととし、主文のとおり判決する。

(裁判官 荒井真治)

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